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第6部分

幽霊西へ行く(日语原文)-第6部分

小说: 幽霊西へ行く(日语原文) 字数: 每页4000字

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 思いに沈《しず》みながら、彼は人波に呑《の》まれて行く、ぅ‘バ斡挨蛞娝亭盲皮い俊
 それが、高島警部にとっては、生きている上杉弥生の姿を見た、最後の瞬間《しゆんかん》であった。

    2

 忙《いそが》しさにまぎれて、高島警部は、降霊術《こうれいじゆつ》実験の約束《やくそく》を忘れていた。死者の霊魂《れいこん》をよび出すよりも、現実の世に残っている死体の方が、彼には、はるかに緊急《きんきゆう》な問睿坤盲俊
 天野憲太郎からは、鄭重《ていちよう》な招待状がとどいた。十日の朝には、弥生から電話で出席をうながして来た。
 幸いに、これという事件もなかったので、彼は出かけましょうと答えたのだった。
 約束の通り、十日の夜七時に迎《むか》えの自家用車は警視庁にとどいた。
 哕灓筏皮い毪韦稀⑻煲凹窑芜h縁《とおえん》にあたっている、金田|晴信《はるのぶ》という青年であった。皮のジャンパ恕⒔C《こん》のズボン、身なりはあまりよくなかったが、顔は近ごろの女に好かれそうな、苦味《にがみ》走った、彫《ほ》りの深い、野性的な感じだった。
「天野さんは」
「熱海でお待ちでございます」
「奥《おく》さんは」
「一足、遅《おく》れていらっしゃるそうで、明日《あす》はおつきでございましょう」
 何となく、不安な気持ちに襲《おそ》われながら、警部は五一年型ビュぅ氓摔韦辘长螭馈
「お寒うございますから、ウィスキ扦庹伽飞悉盲皮い葡陇丹ぁ
 走り出した車の中で、警部は上海《シヤンハイ》以来初めての、ジョニイウォ‘の、芳醇《ほうじゆん》な舌ざわりを楽しんでいた。
 大して動揺《どうよう》もなく、車は京浜《けいひん》国道から横浜をすぎ、江《え》の島《しま》から湘南《しようなん》ドライヴウエイを、一路西へ西へと疾走《しつそう》して行った。
 思わずグラスの数を重ねたウィスキⅳ工侍澶握駝印钉筏螭嗓Α筏摔膜欷啤ⅳ长长恧瑜めE心地《よいごこち》となって、警部の頭に上って来た。ウトウトと、警部は眠《ねむ》るともなく、目ざめるともなく、車の動揺に身をまかせていた。
 いつの間にか、車はとまっていた。目を開いた警部が、窓ガラスをハンカチで拭《ふ》いて、外をのぞいて見ると、あたりは人家の燈《あかり》も見えぬ、人通りもない道だった。
「どうしたのかね」
 警部は車を降りて、後ろに廻《まわ》っている青年にたずねた。
「何でもありません。ちょっとした故障です。すぐ直りますから」
 警部はふたたび、車のクッションに身を埋《うず》めた。時計はちょうど、八時二十分をさしていた。
 十分たっても、青年は、哕炋à藥ⅳ盲评搐胜盲俊%ぅ楗ぅ椁筏悉袱幛俊⒏邖u警部はもう一度、窓から外をうかがって見た。
 闇《やみ》の中に、二つのと擞啊钉窑趣病筏郡郡氦螭扦い搿3啶煵荨钉郡肖场筏位黏ⅴ供‘ッと暗闇《くらやみ》に弧線《こせん》を描《えが》くと、二人は車に近づいて来た。
「お待たせしました。もう直りましたから。それから、このお方を、途中《とちゆう》までいっしょに仱护菩肖盲皮い郡坤郡い韦扦工
「どなた――?」
「平塚《ひらつか》警察署の大宮です。ちょっと今晩、殺人事件がありまして、連絡《れんらく》のために、湯河原《ゆがわら》まで行かなければならないものですから、ご一緒《いつしよ》に願えればありがたいと思いまして」
「ああ、そうですか。私は警視庁の高島です。私の車ではありませんが、どうぞおのりになって下さい」
 警部は、愛想よく、その男を後ろの座席に坐《すわ》らせた。
 車が走り出して十分後、ヘッドライトの白光の中に、非常警戒の警官の姿があざやかに浮《う》かび上がった。
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 近づいて来た一人の警官は、扉《とびら》を開くと、警部の方に挙手の礼をしてたずねた。
「警視庁の高島警部どのでいらっしゃいますね」
「そうだよ。何か用事――?」
「いいえ、殺人事件がありましたので、警戒《けいかい》をしております。お二人ですね」
「ああ、二人だよ」
「失礼しました。お気をつけておいで下さい」
「いったいどんな事件ですか」
 車がふたたび走り出したとき、警部はとなりの男にたずねた。
 三十前後の顔の青い、眼《め》のするどい、どことなく精悍《せいかん》な感じの男であった。地方警察の刑事《けいじ》などには、よくある型だと警部は思った。
「大した事件じゃないんです。平塚でも、相当の資産家といわれている、後藤三平という男を殺して、十万円ぐらい持って逃《に》げたという事件ですよ」
 相手はポツリポツリと答えた。
「それで、犯人の目星はついているんですか」
「ガンはあります。被害者《ひがいしや》の甥《おい》の、後藤進吉という男が、どうも臭《くさ》いというわけです。湯河原に住んでいるんですが、それで私が連絡《れんらく》に行くことになったんです」
「実際、近ごろの若いものはとんだことをしでかしますね。私はむかしかたぎの人間ですから、そう思うのかも知れませんが、むかしは泥棒《どろぼう》にも、三分の仁義《じんぎ》がありましたよ。金さえやれば命までとるとはいわなかった……」
「戦争のおかげで、脳髄《のうずい》のどこかに狂《くる》いが出来たんですよ。本人は、それでいて、ちっとも悪いことをしたとは思っていないんです」
 男はひくくつぶやいていた。その時、哕炋à钎膝螗丧毪蛭栅辘筏幛皮い俊⒔鹛锴嗄辘⑺激こ訾筏郡瑜Δ摔いこ訾筏俊
「実際、その平塚の殺人なんて、馬鹿《ばか》なことをしたもんですね。どうして、最近の若い者は、そんなに簡単に人を殺すんでしょう」
「全く、今日の殺人、あの人殺しも、馬鹿げたこととしか思えないね。最近の若い者は、どうして、あんなに簡単に人を殺すんだろう」
 相手は、おうむ返しのように答えた。
 小田原《おだわら》から、車は下田街道《しもだかいどう》に入り、大小あわせて二百五十というカ证蔚坤颉⒑Lをついて矢のように走った。
 湯河原の町で、男は警部にあつく礼をのべて、車からおりた。
 警部も、やっとのことで、胸の上にのしかかっていた圧迫《あつぱく》を、はらいのけたような思いであった。
 木の間から、海に映ずる、熱海の街《まち》の灯《ひ》が見えて来た。二度の大火で、町の大半が焼きつくされて、新開地のような形相《ぎようそう》を呈《てい》しているとはいっても、層々と、山までのび上がって行く、星座のような街の夜景は、高島警部に何となく、香港《ホンコン》の夜を思い出させた。
 伊豆山《いずさん》、熱海、来宮《きのみや》――と、車は、湯の香《か》ただよう、町の中を突《つ》っ切って走った。
 来宮神社のほとり、熱海|随一《ずいいち》の別荘街《べつそうがい》といわれる西山の、宏荘《こうそう》な一軒《けん》の洋館の前で自動車はとまった。
 ――青山|荘《そう》――
 銹《さび》をふき出した、青銅の表札《ひようさつ》が、うす暗い門燈《もんとう》の下、チラリと警部の眼《め》に映った。
「やっとつきました。大変|遅《おそ》くなって申しわけありません」
 自動車の扉《とびら》を開いた、金田青年の顔は、疲労《ひろう》と、寒さと、緊張《きんちよう》とをあらわして、青白かった。
 高島警部が通された、応接室の煖炉《だんろ》の上におかれた時計は、十時を十分すぎていた。
 待つほどもなく、天野憲太郎が姿を見せた。銀色の頭髪《とうはつ》、落ちくぼんだ両眼両睿А⑸鷼荬胜郡毪螭榔つw《ひふ》……かつての上海《シヤンハイ》時代の彼を知っている、高島警部には、それは生きている亡霊《ぼうれい》としか思えなかった。
「やあ! 高島さん、久しぶりだなあ。あなたとは、六年ぶりになりますか」
「ご無沙汰《ぶさた》しました。何しろ、ひきあげて参りまして以来、貧乏暇《びんぼうひま》なしで、ついどちらにも義理をかいております」
「お忙《いそが》しくって結構と申し上げたいが、あなたのお仕事は、あんまりお忙しくない方が、結構ですな。まあ、おかけ下さい」
 警部はすすめられるままに、椅子《いす》に腰《こし》をおろした。そしてあの豊満な、弥生の肉体と、眼前の夫の老い方とをくらべて、何かわびしい気分にさえ襲《おそ》われた。
「弥生は、あなたと一緒《いつしよ》じゃなかったんですね。自動車でおともすることとばかり思っていましたが……」
「何かご用事で、どこかにおよりになるようなお話でした」
「あれの用事はわかっています。誰《だれ》かと恋《こい》をささやいているのでしょう」
 自分をしいたげるような言葉をポツリと口からもらして、彼は眼《め》を伏《ふ》せて煖炉《だんろ》の焔《ほのお》を見た。
「でも、奥《おく》さんにかぎってそんなことは……」
「気休めをいって下さいますな。高島さん、老いたりといえども、天野憲太郎は、まだ事実に直面する勇気を失ってはいないつもりです。町内で知らぬは亭主《ていしゆ》ばかりなり、とはいいますが、あれの素行《そこう》は、誰《だれ》よりも、私が一番よく知っておりましょう」
 高島警部は、言葉をつづけるのにしのびなかった。ただ黯然《あんぜん》と眼をそらした。
「私が、あれと結婚《けつこん》したのは、もちろん愛情からのことでした。しかし、憐《あわ》れみの気持ちがなかったともいいきれません。若さこそありませんでしたが、あの時の私には、弥生を満足させるだけの富と地位とがありました……そして、それを彼女は、求めてやまなかったのです。上海時代の私たちは、平和でした。幸福でした。弥生は、天野憲太郎夫人といわれることに、心から満足していました……」
 言葉を切った、天野憲太郎は、立ち上がって壁《かべ》の戸棚《とだな》から、ブランディの壜《びん》をとり出して来た。
 警部が手をふって、辞退するのにもかまわず、彼は警部の前のグラスに、酒をついだ。そして、席にかえると、自分のグラスには、唇《くちびる》もふれずに言葉をつづけた。
「その当時は、それでよかったのです。今は万事が逆転しました。日本へ帰ってからの私は、もうむかしの私ではありません。物資を左右に動かしたり、株を買ったり、一応の金は作って来ましたが、今となっては、弥生の映画の出演料の、その何分の一にも及《およ》びません……世間では、私のことを、天野憲太郎とよんではいないのです。上杉弥生の夫――そこまで私も落ちぶれました。まるで、チャタレイ夫人の夫とよばれるような気がします」
「でも……奥《おく》さんはまだあなたを……愛しておられるのでしょう」
「愛――? そんなもの……」
 彼は、自嘲《じちよう》のように笑った。
「あれに残っているものがあるとすれば、それこそ憐《あわ》れみの感情だけでしょう。もうあなたがお働きになることはないのよ……と弥生はいいます。思いがけない、自分の成功に陶酔《とうすい》して……しかし、ほんとうならいいたいのでしょう。そのお年で、そのお体で――とね。考えようによっては、これもずいぶん残酷《ざんこく》な言葉です。だが私は、まだ髪結《かみゆい》の亭主《ていしゆ》になりたくはありません。コキユとして甘《あま》んじたくはありません……」
「…………」
「あなたは、私が降霊術《こうれいじゆつ》などに興味を持った心理を、不思議だとお考えになるかも知れませんね……でも、私には、この世に希望が残されてはいないのです。弥生と離婚《りこん》する――そのような簡単な解決さえ、行動に移すだけの自信もありません。前の妻は貞節《ていせつ》な女でした。私は、ひとり無限の空間の彼方《かなた》から、そのよび声を聞きたいのです……」
 天野憲太郎は瞑目《めいもく》した。幽冥界《ゆうめいかい》からのおとずれのように、はげしい風が、その一瞬《いつしゆん》、窓のガラスをたたいてすぎた。
「お疲《つか》れでしょう。つまらぬ老人のくり言に、おつきあい願って申しわけありません。温泉にでも入ってゆっくりお休み下さい……」
 彼は手をのばして、壁《かべ》のベルをおした。
「この家にも、チャタレイ夫人の恋人《こいびと》は来ておりますよ」
 女中のあらわれる一瞬前、彼はポツリとつぶやいた。そして警部が部屋《へや》を出るまでそのままの姿勢で、煖炉《だんろ》の炎《ほのお》に眼をおとして坐《すわ》りつづけ

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