幽霊西へ行く(日语原文)-第7部分
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女中のあらわれる一瞬前、彼はポツリとつぶやいた。そして警部が部屋《へや》を出るまでそのままの姿勢で、煖炉《だんろ》の炎《ほのお》に眼をおとして坐《すわ》りつづけていた。
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翌朝の九時すぎに、二階から階段をおりて行った、高島警部は、階下から聞こえて来る、ひくい会話に、ハッとして途中《とちゆう》の踊場《おどりば》に足をとめた。
「上杉が来ないって、そんな馬鹿《ばか》な……彼女はいままで一度だって、ロケに遅《おく》れたことはないんだぜ」
「でも、来ないものは仕方がないでしょう。いったいどうしてくれるんです。宿屋では、三十人近くの人間が待ちくたびれですよ」
「そんなことをいったって、おれは知らん。まさか、首に縄《なわ》をつけて、ひっぱり廻《まわ》しているわけじゃあねえからなあ」
「僕《ぼく》は、そんなことをいっちゃいません。ただこの映画の責任者として、マネ弗悌‘である、あなたの責任をおたずねしているわけです」
「無茶いうなよ。松前君、おれはマネ弗悌‘として、契約《けいやく》の交渉《こうしよう》にはあたる。出演料をきめる。そこまでは、たしかにおれの責任さ。しかし女房《にようぼう》でもねえ女を、二十四時間、見はりをしているなんて出来るもんか。自分でも承知している、約束《やくそく》の日に、ロケにあらわれねえなら、それはあの女の責任だよ」
「そんなことをいっても困りますよ。どうしても、今日|明日《あす》中に、熱海のロケを終わらないと、封切《ふうぎ》りに間にあわないんだ。損害|賠償《ばいしよう》ものですよ」
「損害賠償なら、亭主《ていしゆ》にそういうがいいさね」
「そんなことをいったって」
「またあの山本とでも、イチャついているんじゃねえか。枺─仉娫挙扦猡堡郡椁嗓Δ馈
突然《とつぜん》会話はプツリと切れた。やくざのような、下卑《げび》たふとい声が、たちまち温和な猫《ねこ》なで声とかわって、
「天野さん、お早うございます」
意を決した警部は、わざと、スリッパの音を高くひびかせて階段をおりた。
下のホ毪摔稀⒑头摔翁煲皯椞伞⒂郴j誌のグラビアで、高島警部も何度か顔を見たことのある、四十一、二の剃刀《かみそり》のようにするどい感じの監督《かんとく》、松前明、そしていま一人、八角の縁無《ふちなし》眼鏡《めがね》をかけた、色白小ぶとりの四十五、六の男が立っていた。
「ああ、高島さん、お目ざめでしたか」
呼びかける憲太郎の声には、どことなく生気がなかった。
「ご存じですか。こちらは松前明君、こちらは家内のマネ弗悌‘をしている、日高|晋《すすむ》君です。こちらは警視庁の高島警部」
一礼したかしないうちに、日高晋は早くも切り出していた。
「ちょうどいい。この警部さんにお願いしたらどうだ。なあ、松前君」
「何をです」
「上杉弥生、失踪《しつそう》行方《ゆくえ》眨麞摔渭颏怠
主人も、松前|監督《かんとく》も、とたんにサッと色をかえた。
「おあいにくさま。私は捜査《そうさ》第一課におりますので、強盗《ごうとう》殺人以外はあつかいません。ちょっと係がちがいますなあ」
高島警部はかるく外《はず》した。
「いけません。警部さん、そんな官僚《かんりよう》根性を出すもんじゃありませんぜ。係がちがうとおっしゃるのは、そりゃお役所のきまり文句にゃ、ちがいありますまいが、お智悾钉沥ā筏挨椁ぁ吔瑜筏郡い猡螭扦工省
「それにしても、全然足どりも分からなくっちゃあね」
「昨夜、この家へあらわれたことはたしかですよ。ただ今朝《けさ》は、どこにも行方が知れないんです」
松前明は、突然《とつぜん》思いつめたようにいい出した。
「弥生が……あれが家へ帰って来た……そんな、そんな……」
どうしたのか、天野憲太郎の顔は、幽霊《ゆうれい》のように青ざめていた。
「どうして君は、そんなことをいうんだ。何か証拠《しようこ》があるというのか」
日高晋も、太いパイプを両手でぐっとねじってたずねた。
「僕《ぼく》は、何も知りません。ただお手伝いさんがそういっていたんです」
「何といったって」
「昨夜、奥《おく》さまの部屋《へや》には、たしかに奥さまがお休みになりました――とね。寝台《しんだい》のシ膜摔稀⑷摔吻蕖钉汀筏郡ⅳ趣ⅳ盲郡贰⒒颐蟆钉悉い钉椤筏摔习陇丹蓼磹塾盲巍ⅴ‘ルという煙草《たばこ》の吸殻《すいがら》が何本もつっこんであった。台所の戸棚《とだな》の中からは、ハムとパンが半|斤《ぎん》ぐらいなくなっていたし、離《はな》れの湯殿《ゆどの》では、二時ごろ、お湯を使われる音がした、といっていますが、これだけ揃《そろ》ったら、証拠は十分すぎるじゃありませんか」
天野憲太郎の顔には、明らかに疑惑《ぎわく》の色がただよっていた。
「そういえば、私もちょっと妙《みよう》なことに気がついたんです。高島さんに昨夜さしあげたブランディ……あなたも召し上がらなかったし、私もほとんど手をつけませんでした。それなのに、今朝あの瓶《びん》は、ほとんど空《から》になっていたんです」
警部はわけの分からぬ身ぶるいを感じた。
「お部屋《へや》を拝見させていただけませんか」
天野憲太郎は、お手伝いをよんでいいつけた。
「奥《おく》さんの部屋をあけてさしあげてくれ。皆《みな》さん、私は書斎《しよさい》におりますから」
弥生の部屋は、長い廊下《ろうか》をへだてた離《はな》れにあった。化粧室《けしようしつ》と浴室のついた寝室《しんしつ》と、居間の二部屋――どちらも、十二|畳《じよう》ぐらいの大きさだった。
「これは何です」
居間に入るなり、警部はたずねた。その床《ゆか》の上には、長さ一メ去搿⒏撙捣钉悉小筏趣猡宋迨互螗沥挨椁い沃庆帯钉筏胜肖蟆筏摹⒑幛郡铯盲皮い郡韦扦ⅳ搿
「ロケ用の衣裳《いしよう》が入っているんでしょう。昨夜|遅《おそ》く会社のトラックが撙螭抢搐蓼筏郡椤
「そうですか」
警部はそれ以上、何ともたずねなかった。華《はなや》かな女優生活を思わせる、豪華《ごうか》な部屋の飾《かざ》りつけに、チラリと一瞥《いちべつ》を投げると、寝室の中に足をふみ入れた。
お手伝いの証言通りだった。シ膜稀⑶蘼摇钉亭撙馈筏欷郡蓼蓼摔胜盲皮い俊煵荨钉郡肖场筏挝鼩!钉工い椤筏狻ⅴ譬‘ブルの上のパン屑《くず》も、化粧室《けしようしつ》の濡《ぬ》れたタオルも、誰《だれ》かが、この部屋《へや》で、何時間かの時間をすごしたことを暗示していた。
湯槽《ゆぶね》の中は空《から》だった。
洋服|箪笥《だんす》には鍵《かぎ》がかかっていた。別に、自殺を暗示するものもなかった。
ブツブツいいながら、松前明と日高晋は、新映映画のロケ隊が泊《と》まっている、相模屋《さがみや》ホテルの方へかけつけて行った。
警部は、二階の自分の部屋に帰って来て、読書にその日の一日をすごした。彼はまだ、この時は、上杉弥生の失踪《しつそう》に、それほど重大な意味を感じていなかったのである。女優としての気まぐれか、それとも自分の存在を、監督《かんとく》はじめ関係者に、深く印象づけようとするお芝居《しばい》かと、それぐらいに軽く考えていたのであった。
警部が事の重大さを、ほんとうに自覚し出したのは、その日の夕食後のことである。
上杉弥生は、その日一日、ロケ伐绁螭摔献摔蛞姢护胜盲郡韦溃
金田青年に食ってかかった、松前明と日高晋は、昨日《きのう》の四時、弥生を新宿《しんじゆく》駅で自動車から降ろしたという、最後の手がかりを得た。だがそのあとの足どりは、依然《いぜん》として知れなかった。
夕食の席には、新しく二人の人物が加わった。枺─椁浃盲评搐俊左姲作住钉悉悉膜悉激蟆筏坞懨健钉欷い肖ぁ贰⒋◢u|玄斎《げんさい》と、新劇俳優で、最近知性を持った二枚目として、映画にも進出し、メキメキと売り出した、山本|譲治《じようじ》である。
「ねえ、松前君、奥《おく》さんがおいでにならなくっちゃ、われわれがこうして、ご厄介《やつかい》になっているのも申しわけない話だ。今晩から、ホテルへ引きあげようじゃないか」
日高晋は、聞こえよがしにいった。
「ご窮屈《きゆうくつ》でしたら、別におひきとめもいたしませんが……」
天野憲太郎は、つめたく答えた。
高島警部は、食卓に流れる、無気味な空気に、空恐《そらおそ》ろしい思いを禁じ得なかった。
天野憲太郎、松前明、日高晋、山本譲治、川島玄斎……この人々は、みな何気ない顔をして、黙々《もくもく》と食卓《しよくたく》に坐《すわ》っている。おそらくは、その中に、弥生の行動の真相を知っている人物があるには摺钉沥筏い胜い韦坤⒄l《だれ》一人、それを口走ろうとする者もない……
警部の頭の中には、その時恐ろしい考えが閃《ひらめ》いた。
「川島さん、あなたの降霊術《こうれいじゆつ》は、ほんとうに信用出来るものですか」
霊媒は、ピクリと白い眉《まゆ》をあげた。
「信じないお方には分かりますまい」
「私は、もともと無神論者でしてね」
「お気の毒なお方ですな。あなたの霊魂《れいこん》は救われませんぞ」
「明日《あす》をも知れない人生です。死後の世界のことなど憂《うれ》うるにあたりません。でも、もしあなたが、私の不明を啓発《けいはつ》して下さるおつもりなら、今晩、私の指定する、亡霊《ぼうれい》をよび出してもらいたいのです」
年よりか、若いのか分からない、この霊媒《れいばい》は悠々《ゆうゆう》白髯《はくぜん》をしごきながら、
「承知しました」
と答えた。
九時すぎて、人々は青山|荘《そう》の一室に、円いテ芝毪颏悉丹螭腔幛筏俊¥郡烂稚我巫印钉い埂筏坤堡n車の歯のぬけたように空いていた。燈《あかり》が消えた。漆《うるし》のような暗闇《くらやみ》の中、羽虫の翅《はね》のひびきのような、霊媒のかすかな呪文《じゆもん》が流れはじめた。聞こえるか、聞こえないかのその声は、次第次第に興奮の度を加え、破《わ》れ鐘《がね》のように部屋中に鳴りひびいた。
「高島さん、霊魂《れいこん》の名を呼んで下さい」
警部の右|隣《どなり》に坐《すわ》っている、天野憲太郎がささやいた。
「上杉弥生……上杉弥生……」
高島警部は、決然とこの女の名を呼んだのである。
呪文《じゆもん》の声が、パタリとやんだ。太古のような沈黙《ちんもく》がその後につづいた。声もなく、衣《きぬ》ずれの音さえ聞こえぬ深い静寂《せいじやく》。
かすかに聞こえる声があった。すすり泣き、むせび泣きにも似た、男とも女とも分からぬ声が聞こえて来た。
「誰《だれ》……わたしの名をよぶのはどなた……」
「私です。警視庁の高島竜二です。奥《おく》さん、私とのお約束《やくそく》をはたしていただけますか」
「どんな……お約束……」
「あなたは生きてはいませんね。いま幽冥界《ゆうめいかい》の彼方《かなた》をさまよっているわけですね」
「はい……わたしは、たしかに殺されました……」
「その死体は、どこにあるのです、亡骸《なきがら》はどこに残っているのです」
「この家です……わたしの部屋《へや》の、洋服|箪笥《だんす》の中なんです……」
「その犯人は」
「…………」
「あなたを殺したのは誰《だれ》なんです」
「…………」
沈黙《ちんもく》の中に、かすかなすすり泣きが、長く尾《お》をひいて残っていた。
「燈《あかり》を! 燈を!」
誰《だれ》かの叫《さけ》ぶ声がした。椅子《いす》を蹴《け》って、立ち上がる音が聞こえて来た。と見る間に、天井《てんじよう》のシャンデリアは、色青ざめて坐《すわ》っている、人々の顔を照らし出した。
スイッチを入れたのは、金田晴信であった。天野憲太郎は、苦しそうに、胸のあたりをおさえている。日高晋は、警部の視線を恐《おそ》れるように顔を伏《ふ》せると、ハンカチにはげしく咳《せき》こんだ。川島|霊媒《れいばい》は、口を大きく開けてしまって、呆然《ぼうぜん》自失の態《てい》だった。
誰《だれ》一人、生色のある者はない。誰一人、動き出そうとする者はない。
数分後、初めて山本譲治が口を開いた。
「警部さん……これはいったい……何というお芝居《しばい》です……失礼な……僕《ぼく》はこれで……」
「お待ち下さい……」
警部はするどく言い切った。
「この部屋《へや》から、出て行かれるのはご随意《ずいい》ですが、後で重大な嫌疑《けんぎ》が