好き≠恋(日文版)-第14部分
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「え……?」
「あんまり、無理しないほうがいいよ。じゃ、俺、風呂入ってくるから」
歩は目も合わさずにそう言うとすぐに階段を上がって行ってしまった。何が起こったのか分からず、健人はその場に座り込んだまま、きょとんとしていた。濡れた体に抱きしめられたせいで、服が濡れて冷たいはずなのに、パニックに陥ったときと同じように心拍数が上がっていき、体が熱くなってきた。
助けてくれた理由が分からない。嫌いだと言って、2ヶ月以上口すら利いていなかったと言うのに。かなり嫌っていたはずなのに、こんなことをされて気持ち悪いとも思わない自分の感情に、健人は戸惑っていた。
それは歩も、同じだった。
階段を駆け上がり、自室へ入ると同時に大きく息を吐き出す。雨が降り始めて、雷が鳴り、健人が怖がっているのではないかと思ったら我を忘れたように走り出していた。蹲って震えている健人を見たら、放っておけなかった。嫌っていて、顔も見たくない、口も利きたくないと思っていたのに、どうして抱きしめてしまったのか自分の行動が分からなかった。
「……何、してんだ。俺は……」
部屋の扉に凭れて、ずり落ちていく。恐る恐る名前を呼ばれた声が忘れられない。
健人が、名前を呼ぶのは、初めてのことだった。落ち着かない鼓動を抑えるように、歩は自分の胸を握り締めた。
ようやく雨もやみ、心拍数が落ち着いてきた頃、濡れた服にク椹‘の風が当たり健人は身震いした。抱きしめられただけでこんなにも濡れてしまったのだから、歩はもっと濡れていたんだろう。たまたま外に居るときに雨が降ってきてしまったのか、それとも健人が怖がっているのを知って、雨が降っている中を帰ってきたのかどうかは分からない。けれど、大丈夫と言って宥めてくれた声が忘れられなかった。
このままでは風邪をひいてしまうと思い、健人は立ち上がった。部屋に向かおうとして階段の近くに行くと、びしょぬれになったカバンが放置されていた。それは紛れも無く歩のもので、こんなところに放置していても邪魔なだけだ。片付けようとして、伸ばした手が止まる。勝手に片付けたりなんかしたら、歩は機嫌を悪くしそうだ。しかし、気づいてしまった以上、放置しておくのも気が引けてどうすればいいのか分からなかった。
階段から降りてくる足音が聞こえ、健人はとにかくこの場から立ち去ろうとソファ貞搿%譬‘ブルの上に置いてあるリモコンを手に取り、テレビをつけた。それと同時ぐらいに扉の開く音が聞こえて、心臓が飛び跳ねた。
「ねぇ、健人」
普通に話しかけられ、健人は振り向く。どう返事をして良いのか分からず、声を出すことができなかった。歩はまだ服を濡らしたまま、着替えを持って立っている。ぽたぽたと服の裾から落ちている雫が水溜りになっていた。
「ご飯ある? 俺、腹減ってんだけど」
先ほどと変わらない声音に、健人は戸惑い、どう返事をして良いのか分からなかった。けれど、聞かれているのに無視をすることはできず、健人は口を開いた。
「……要らないんじゃなかったのかよ」
いつも通り話しかけてきてくれた歩にそんな無愛想なことを言ってしまい、健人は後悔した。こんなことを言いたかったのではない。作ればあるとか、そんなこと言いたかったのに、思いとは裏腹に出てきた言葉は冷たいものだった。これではまた、仲が険悪になってしまうと思い、健人は俯いた。
無愛想な声に、歩は少し笑った。
「ちょっとさ、意地張ってたんだよね。友達のとこ、泊まりに行く予定、無かったんだ」
「……え」
「それにこんなびしょぬれで友達のところにもいけない。だからさ、あるなら作ってよ。昼からなんも食べてないんだ」
困ったように笑う歩を見て、余計に居づらくなった。ひどいことを言った自覚はあり、またも険悪な状態になってしまうと懸念していたのに、歩はそれを物ともせず逆に申し訳なさそうな顔をした。そんな表情を見ていたら、どうして素直になれなかったんだろうかと、後悔ばかりしていた。
「……俺も、まだ食べてないから」
呟くように言うと、歩はにっこりと健人に微笑みかける。
「あ、そうなんだ。じゃぁ、ちょうど良いね。一緒に食べよう」
まさか、そんなことを言ってくるとは思わず、健人は唖然としたまま風呂場へと向かう歩の後姿を見送った。無理をしていることに気づかれ、同情でもしているのだろうか。歩が何を考えているのかさっぱり分からず、思考回路が停止してしまう。同情されても嬉しくないが、それに抗うことも出来ない。
健人は冷たくなった自分の腕を掴む。冷気にさらされ、濡れた服はどんどん体温を奪っていく。歩が何を考えているのか到底理解できないけれど、状況が改善されたのは見て取れる。このまま深追いして、また険悪にならないほうが良いだろうと思い、扉のドアノブに手をかけた。
「……待てよ」
先ほどまで考えていた思考に、健人は疑問を抱いた。状況が改善されて、喜んでいる自分が居る。前までは関わらないでほしいと切実に願い、近寄らないように冷たい態度を取っていた。それなのに、今はこれ以上、仲が悪くないように努めている。歩の本心が聞けたから、すっきりしたのだろうか。助けてくれたから、嫌いではなくなったのだろうか。それとも、別の感情を抱いてしまったのだろうか。考えれば考えるほど、ドツボにはまっていきそうな気がして健人は扉を開けた。一目散に階段を駆け上がり、自室へと飛び込む。ク椹‘が効いていない部屋はムッとしていて、とても暑い。けれど、冷たい風に晒され、冷えた体にはとても心地よかった。
「考えるのはやめよう」
考えていてもキリがないと悟った健人は、これ以上、歩のことを考えるのはやめ、濡れた服を脱いだ。一人で悶々と考えていても、意味が無いことは分かっていた。もしかしたら、明日になれば、歩の態度は前と同じようになっているかもしれない。そう思って、健人はそこで思考を切断した。
服を着替え、濡れた服を掴んでリビングに降り、洗濯护沃肖朔蛲护棉zんでから健人はキッチンに立った。この1週間、まともな食事を作る予定は無く、冷蔵庫の中も大した物が入っていなかった。かと言って、今から買い物に行くのも、ご飯を作るのに張り切っているようで嫌だった。冷蔵庫の中には、牛肉が入っている。野菜室を開けてにんじんが入っているのを見て、健人は肉じゃがを作ることにした。肉じゃがはそんなに時間がかからないし、材料もありきたりなものが多い。母が得意としている料理で、よく食卓にも出ているが、気にしている余裕は無かった。
たまねぎとにんじん、ジャガイモの皮を剥いて大きく切る。フライパンに油を引き、牛肉を炒める。ある程度、火が通ってきたら水を入れて、牛肉から出る灰汁を取ってからにんじんを投入する。それからジャガイモとたまねぎを入れてから、酒、みりん、砂糖、しょうゆを入れて味を眨à搿R贿Bの作業は手馴れていて、料理自体真面目にするのは久しぶりだったが、要領よく出来た。煮込んでいる間に味噌汁を作ろうと、片手鍋を手を伸ばす。誰が置いたのか分からないが、片手鍋は棚の一番上に置かれていて健人の手は届かない。それでも台を使ってとりたくない健人は、背伸びをする。
「……くっ」
あと一歩で届きそうだと言うのに、その差は中々縮まらない。作業台に手を付いて体を押すように伸ばすが、指先が取っての先に届くだけで取っ手が掴めない。諦めようとしたときに、後ろから手が伸びてきて鍋の取っ手を掴んだ。
「これ?」
振り向くと真後ろに片手鍋を持った歩が立っていた。距離は近く、間近にいたことに驚きすぎて反応が出来なかった。歩は頭にタオルを仱护皮い啤⑶绑姢樯伽匪韦盲皮い俊K獾韦肓激つ肖妊预Δ韦稀ⅳ长ρ预Δ长趣蜓预Δ韦坤恧Δ纫姷边‘いなことを考えてしまった。
歩は何も言わない健人に鍋を突き付け、「これ、使うんでしょ」と言い、受け取る様に催促をする。無言で受け取った健人を見て、視線をコンロへ向けた。フライパンの中に入っている具を見つめて、今日の夕飯を当てる。
「今日は野菜炒め?」
ものの見事に外した歩を見て、健人は息を吐きだした。どこをどう見たら、これが野菜炒めになるのか教えてほしいぐらいだ。呆れたように「……肉じゃがだよ」と言うと、歩は「……また間摺à俊工瓤嘈Δい筏俊
「景子さんが作る肉じゃが、美味しいよね」
「……でも、なんか足りない。母さんの肉じゃがは」
健人は鍋に水を入れながら、聞かれたことは答えようと思い、返事をしていた。母が作る肉じゃがはマズイわけではないが、いつも何かが足りないと思っていた。何気なくそう言うと、歩は「ちゃんとした肉じゃがってどんな味がするんだろう」と小声で言った。それが聞きとれなかった健人は歩の顔を見たが、それ以上追及できなかった。フライパンを見つめる目は、少しだけ悲しそうで、触れてはいけないと言っているようだった。
「味噌汁は何にするの? 手伝えることあるなら、手伝うけど」
「じゃぁ、テ芝胧盲い泼螭润绯訾筏啤
「ん、分かった」
先ほどの悲しそうな顔など微塵も見せずに、歩は笑いながらキッチンを出て行った。こんな風に、自然と話が出来る日がくるなんて、思いもしなかった。これが普通なんだろうが、どうも気になってしまい、上手く言葉が出せない。昨日までは険悪だったのに、あんなことがあっただけでこうも変わってしまうのだろうか。それもこれも、歩が話しかけてくるから、健人は答えているだけだ。歩の中で何か変化があったのだろうか。テ芝毪蚴盲い皮い霘iを少し見つめて、健人は目を逸らした。
歩だけが変わったわけではない。抱きしめられてから、健人も少しずつ、変わっていた。
ジャガイモに火が通っているのを確認してから、健人は味見をした。自分が作った肉じゃがを食べていると、やはり母の肉じゃがは何か物足りないような気がしてたまらなかった。作っているところを隣で見ているが、全てを見ているわけではない。何かを入れ忘れているのだろう。ろくに料理などしてこなかった母のことだから、作り方なんて忘れてしまっている。その割に、健人の助言を聞こうとしない。それはそれで母らしいと、健人は思っていた。
皿に肉じゃがをよそって、お椀に味噌汁を入れていく。すでに茶碗にはご飯がよそってあって、歩がテ芝毪剡んでいる。今日の夕飯は肉じゃがとサラダだ。味噌汁の具は、もやしとわかめだ。乾燥わかめがあったので、それを水に浸して戻し、別の容器に絞って移していた。一つまみ分、わかめを掴んでお椀の中に入れる。箸で少しかき混ぜてから、味噌汁をテ芝毪貋Kべた。
歩はすでに席に付いていてテレビを見ていた。健人が持って来たのを気配で感じると、目の前に置かれた味噌汁を見つめて「わかめともやし?」と健人に確認した。
「そう」
「へぇ、もやしの味噌汁とか初めて見た」
「……母さん、出してなかったっけ」
もやしの歯ごたえが好きで健人は良くもやしのみそ汁を作っていた。再婚してからは母が作る様になったせいで、あまり口にしなくなったが、それがいつからだったのかは覚えていない。味噌汁だって、この前の夜、久しぶりに作ったのだ。手伝いをすることは多々あるけれど、味付けはすべて母がしていた。この前はたまたま、手が空いてなさそうだったから健人が味付けをしただけだった。
「作って無かったと思うけど。さ、食べようよ。冷める」
会話を中断させるように歩が箸を掴んだ。健人はまだキッチンに置きっ放しにしている肉じゃがとサラダを持って、ダイニングテ芝毪丐葢搿¥い膜狻⒛袱雀袱瑢澝妞俗盲皮い啤⒔∪摔葰iが隣同士だ。二人が居ない今、果たして二人並んで座る必要があるのだろうかと考えてしまい、足が止まった。この広いリビングの中、二人が隣に並んで座るのは奇妙に感じる。そう思ってしまったら、動くことが出来ずに、その場に立ち往生した。
「……健人? 食べないの?」
「え、あ……、うん……」
そんな健人を訝しんだ歩が、怪訝な目で話しかけてきた。箸と茶碗はいつもの席に並べられている。ここでもし、健人が歩の対面になど座れば、変な意識をしていることに気付かれる。そんなことをしてしまえば、同じことの繰り返しの様な気がして、健人は皿をテ芝毪酥盲葰iの隣に座った。
右隣にいる歩は、リビングの奥にあるテレビを見つめていた。番組は丁度、心霊写真特集をやっていて、出演者たちは眉間に皺を寄せながら映し出された写真を見ていた。そんなものに全